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流 星 雨 の 夜

ながれぼしがまるで雨のように降るのだと聞きました。 ずっとずっと昔、私がまだ小さかった頃の事です。

それを見ようと日本中で空気のきれいな山の上や海辺や 家の周りで大勢の人が空を見上げていたの。

どうだった?

流星雨はこなかった。

どうしてこなかったの?

流れ星は宇宙の塵が地球の引力に引かれて 地球の表面の空気にぶつかって光るの。 天文学者がこの日この時間に地球が丁度 この塵のたくさんあるところに入るという計算をして、 たくさんの流れ星が日本で見られるだろう、って いう予報をしたんだけど、 そんな計算はとてもむつかしいからね。 なかなか当りはしないものよ。

新聞の記事を指しながら母は涼しい顔で言いました。 私はそんなもんなのか、と思いました。 大きな天体の運行予測と違って、 宇宙空間に残された微細な彗星のカケラの ちょうど濃い所に地球が突っ込む時間なんて 判らなくて当たり前かもしれないな。

以来。
周期的に巡ってくる流星群、 特に真夏のペルセウス流星群なんかは 屋根に寝転がって涼みながら見るのに最適ですから 気が向いたら眺めるようになって、 かなり大きな火球や大きな唸りを伴って空を切る 古代妖怪「天つ狗」とされたような流星さえも いくつも見てきましたが、 雨の様に降る流星雨を見る事は 生涯無いかもしれないとずっと思っていました。

先年日本で獅子座流星群が 大流星雨になるという予報が出た時も。 丁度当時観測に絶好の東向きの砂浜まで 走って5分という好条件の太平洋側の 土地に住んでいたにもかかわらず 当日はたまたま氷雨混じりの嵐の日本海側に居て、 空を見上げられなくて残念だなあ、と思いつつも 心の底では(たぶん、外れる、)と思っていました。

予報は──やはり外れて日本での大出現は成らず、 その翌年は日本の昼間にあたるヨーロッパで 大流星雨が観測されました。 そして彗星が再び巡って来る33年後まで 11月の空の獅子座流星群はしだいに その姿を減じて行くと、多くの人と共に信じていました、

2001年11月19日未明、
日本に獅子座流星雨が出現する。
ピークは午前2時半頃と3時19分、
一時間に数万個の可能性。

ええっ、それじゃあ 百年に一度の出現規模じゃありませんか。 そんな話が信用できるものでしょうか。 本邦の国立天文台は『出るとも出ないとも言えない』と 明言を避けています。 気持ちはとっても良く判ります。 私も結構な人数にこう言って回りました。

流星雨の予測はとても難しいからね、 また外れるかもしれない。 でも流星雨というほどでなくても 獅子座の流星群は間違い無く出るし それでも結構大きな流れ星が見られるから損はしないと思う。 折角の機会だから5分でも空を見ていたらいいよ。

そして晴れ渡った群青の空に細い月は早々と沈みます。 当日の日曜夜は枕元に厚手の靴下、ズボン、 セーターを用意して早めに布団に入って目覚ましを 深夜1時(普段寝る時間です)にセットしました。 目覚ましが鳴る前に目覚め、暗闇で服を重ね着して、 薄暗がりでコンタクトレンズを装着。 闇に慣れた目で空を見上げると、 雲の影も無い満点の星空の中に流れる気配は いつもの流星群の夜とは勢いが違ってみえます。

これはいけるかも。 縁側に積んでおいた毛布の山を庭に出して ホットコーヒーと時計を傍らにおいて準備完了。 住宅地なのですぐ傍らに街灯があるし、 北側は家で視界が遮られるので、離れたたんぼの方まで 移動しようかなあとも考えたのですが、 暗闇のあぜ道で寝転がっていたら人に踏まれそうです。

放射点から全天に向かって飛び散って見える流星群は きょろきょろ首を回して一つ一つを目で追うよりも ねっころがってなるべく広い範囲を一度に 視野に納めるのがコツなのです。 どうやら今宵の流星はただものじゃなさそう、 すでに住宅地でも充分な光度のものが現れています。

きたきた。
どれほどの規模かは知れませんが、 地球はこれよりテンペル・タットル彗星が昔残していった 濃い塵の帯に突入しようとしている模様です。

普段見慣れている流れ星は大概 す、と黒板にチョークでひいたような単調な白い線ですが、 今夜の流星の多くは先端が強く光っています。
アルデバラン、ペテルギウス、リゲル、シリウス、 南の空を支配するきらびやかな冬の一等星の数々を はるかに凌ぐ明るさです。 地球の大気に触れた瞬間の発火が見えるようです。 ぱあっと眩い金色のフラッシュが輝き、 燃え尽きた後に白い煙のような軌跡が残るものもあります。 大きな流星の印、流星痕。

東の空には獅子座の見慣れた鎌の形が 見やすい角度まで昇ってきました。 その位置から下向きには短く、 真上を走る時はくっきりと、 西の空に向かっては長く尾を引いて、 明るい金色の光は1分毎くらいに現れはじめました。 普通の流星に至っては数限り無く流れている筈です。

獅子座の方角を先頭にして、宇宙の塵の中で 大気のカプセルに護られた地球が 金色の火花を散らしながらぐんぐん進んで行くのが 芝生に横たわった身体に感じられるようです。

あ、今の、天頂近くに並んだ双子 一等星カストルとポルックスの間、 煌々と輝く木星よりもはるかに明るかった、 マイナス四等級?なんて見事な。 最初のピークにかかったようです。

これは見なければ勿体無い、 みなさーん、凄いですよー、空を見てー、 静まり返った住宅地の住民を皆 叩き起こしてあげようか、などと考えてしまいます。

三時前に次のピークに備えて家に戻り、 お手洗いにいったりコーヒーをいれたりして一休み。 少年のような瞳のデビッド・アッシャ−博士、 感謝します、貴方の計算は正しかった。

この限られた視界の街灯の点る庭で 1時間に100個くらいは見えたんですから 明りのない空気の澄んだ山の上なんて 1000個単位で星が流れて見えているでしょうね。 それこそ降りしきる雨のように。

さあ、後半戦。
二本目のダスト・トレイルに突入する時間です。 もう、一度に二本、三本交差するように飛ぶのはあたりまえ、 同じ地点から別方向に流れるのがいくつもあるのは 大気に突入した瞬間、粒が割れるのでしょうか。 幾筋もの金色の光が散るところは 音のない花火の散り際のようです。

赤い光を点滅させた黒い影が星空を横切っていきます。 素早く流れる星を見慣れた目にはひどくゆっくりと。
飛行機。
窓の明りを消した真っ暗な航空機のようです。 流星観測のためでしょうか。 そういえば一昨年のヨーロッパに出現した 流星雨の映像の多くは観測機が撮影したものでした。 あ、今大きな流星が機体の上を横切って 飛行機のシルエットを浮かび上がらせました。
今の見えました?
飛行機の窓から、今の見事な流星。

4時になったので撤収し、 暖かい布団にもぐりました。 瞼を閉じても光の矢は飛び続けます。

かっては当らなかった計算。 あれから何年経ったかな。 母上、御覧になりましたか。(ナルシア)

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