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8 月 の 植 物 園

― キュー・ガーデンの思い出 ―

暑い、夏の盛り。 真昼の植物園。 風は凪いでいる。

同じ温帯に属する日本と違い、 西岸海洋性気候というのは、 夏、涼しく、冬、暖かい気候である。

といっても、 8月のちょうど正午過ぎともなると、 日本より涼しいとはいえ、 暑いことには変わりない。 緑は、すっかりしおれてしまい、 咲き終わった花々の「残骸」が そこらに散らばるばかりである。

元気なのは、 この暑い中で、さらに暑く、湿気の多い温室の中の、 熱帯の植物だけであった。

「ああ、確かに。」 温室を出た後、にわかに気づく。 そう、暑いとはいえ、空気はからりとしている。 べとべととまとわりつくような、 不快な湿度の高い暑さではないのだ。

春にくれば美しいだろう庭園。 秋であれば、さらにまた、 落ち着いた美しさに出会えるだろう庭園。 ひたすら広大な、植物園のなか、 殺伐としたものすら感じながら、さまよう。

ふらふらとした足取りながら、 しっかりと、途中の売店で、食糧を確保する。 食に重きを置くことはない、私の旅は、 食べることにおいては、質素である。 お昼は、サンドイッチで済ませることが多い。 もともと、パンがあまり好きではない私でも、 飽きることがないほどに、サンドイッチの種類は豊富であった。 この日もサンドイッチに、ジュースだ。

ちょうどいい具合に、この広大な植物園の一角にオークの木立があった。 樹齢何年だろうか? 巨木と呼んでもいいかもしれない。 それほどに、大きな木々が並んで立っている。 いつの間にか、木々の間を涼しい風が吹き抜けている。

静かだった。 誰も、いないオークの木陰で、ゆっくりとくつろぐ。 とても静かで、ほんとうに、時が止まったかのような、 時間の間で、休息をする。 旅の疲れも、 それまでの日々の疲れも、 いろいろな悩みも、全部が消えていく。

木々には、不思議な力がある。 今でも、あの時のことを思い出すと、 心がすーっと、透明になっていくような気がする。 あの時、言葉では意識しなかったが、 私は木の力で癒されていたのだ。

小さいなと、木々を見上げて思った。 私は小さい。 消えてしまいそうなほど小さくて、 だから、所詮、私の悩みも小さいのだと、 少し心が軽くなった。

今でも。
あの夏の瞬間を思い出すだけで、 風が吹く。 そして、いつまでも、私は木を見上げているのだ。

8月の植物園の魔法。 真夏の植物園には、 夏にしか出会えない静寂があった。
(シィアル;010720 )

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