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南房総花畑

こんな光景が、あるのです。

房総半島は実際に車で走ってみると、かなり広大です。 海岸線はその地域によって千差万別、延々と続く砂浜あり、黒々と聳え立つ 断崖絶壁あり、逆巻く怒涛あり、鏡の様な湾あり。

そのなかでも私の一番のお気に入りのドライブコースは、鴨川の明るい緑色 の海から白浜の濃い紫色の海に至る、常に左手に海を従えた半島東南の道 です。夏休みや連休になると、家から車が出せないほどの渋滞が起こる観光 地ですが、普段は淋しいほどに人通りのない片田舎です。

早春の南房総が花で名高い事は旅行雑誌のタイトルや旅行代理店の ツアー名で知れます。けれど私は、それは首都圏からの観光客のための観光 パークなどの、大掛かりな整備された花壇や温室の類だろうとずっと思って いました。いくら暖かいとはいえ関東ですから、そのへんに正月そうそう花が 咲く訳もないだろう、と。また実際暮らしてみると、やはり冬はそれなりに寒い のでした。

かなりまだ冷え込む二月のある晴れた日のこと、いつもの道をドライブして いると、道のそこここに可愛らしい小さな花畑ができていました。二坪くらいの 風にそよぐポピー畑や、強く光を跳ね返す橙色の金盞花畑、「花摘みできます」 と書かれた小さな看板と、その傍らにちんまり座ったお婆さんなどが、ちらちらと 視界の中を過ぎていきます。

へえ、この寒いのに花は咲くんだ、偉いものだと感心し、それならいつもの風の 強い海沿いではなく、一本内側の道にはもっと沢山花があるのではないかと、 千倉の町から海岸の方へは折れずに、試しにそのまま町の中を抜けてみました。 すっかりがたがたになった古い舗装道路の脇の、民家の隙間にときおり小さな 花畑がはさまって、そうして町も尽きた時──その光景はありました。

早春の南房総の花畑。
こんな、大型観光バスも通らない道沿いに、

見渡す限りの花畑が。

金盞花の輝く黄の、橙の、 ストックの白、桃、赤紫、濃紫の、 矢車菊の青の、薄紅の、 小さな切れ切れが何百と寄せ集まり、繋がり合ってえんえんと続く花畑が、 あったのです。

既に何台か適当に停められた車のある脇道に車を寄せ、駆け寄ります。 近くでみると、それは道中にときどき見られたのと同じような数坪の小さな畑を 持つ花農家が集合し、それぞれに丹精を競って一面に花を咲かせているのです。 ですから、北の大地の大型農法のような色彩の統一された花畑と異なって、 これほどにとりどりの色のパッチワークが作り出されているです。

「おはなばたけ」という語感のふわふわと平坦に淡いパステルカラーではなく、 一筆一筆の刷毛目が盛り上がるような、油絵の具の輝きに満ちた、鮮やかに 力溢れる「お花畑」。背後には低いなだらかな緑の山、道をはさんで反対側は 波の飛沫く青い海。海からの強い風は耳がちぎれそうなほど冷たくて、それでも ストックの重い芳香の中、滑りやすい湿った畦道をあちらにこちらにめぐりながら、 見える限りの花の中を彷徨っているうちに、しばらく忘れていた一つの感情が 身体の底から湧きあがってくるのに気が付きます。

それは、「歓喜」。
二ヶ月早い、春の宴です。(ナルシア)

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