黒という名の青い花  


花を絵具に自宅の庭に絵を描いたと言われる
印象派の巨匠の有名な庭園を模した庭を
春のまっさかりに訪れました。
ピンク一色にしたって同系色の花を何十種類も
取り合わせているから色合いに奥行きがあって素敵です。

庭園の片隅には庭に植え付ける苗を準備する育苗温室があって、
次回に咲かせる植えつけの終った苗の残りを分けてくれます。
「ニゲラ」とだけ書いた細い葉がもしゃもしゃした苗がありました。
「このニゲラ、青ですか?」
と店番の人に尋ねると
「そうですね、そこに咲くのと同じですから──」
指さす先にはライラック、チューリップ、わすれな草、
「ニゲラはまだこれからみたいですよ」
「うーん」
でも青だと思いますよ、ニゲラだから、
というので3つ買いました。

うちで矢車草やデルフィニウムやメドウセージの
青花ハーブコーナーに植え付けて待つ事一月、
ぐんぐんと伸びたニゲラはしましまの蕾をつけました。
‥‥赤く見えるんですけど。
咲きました。
ニゲラ独特の細い葉と同じ緑のもしゃもしゃに囲まれた
可愛い勲章のような形の‥‥ピンクの花。
あれ?
続いて別の苗が開きました。
緑の中に光る‥‥白い花。
あらら?
そして最後にお待たせしました、
見慣れたニゲラの青い花。
赤、白、青のトリコロール。
私もまた上手に三つ選んだものです。

「ニゲラ」というのはラテン語で「黒」という意味、
ニグロなどと同じ語です。
一重の花、と言っても花びらではなくて
萼の色が綺麗なんですが、
緑のもしゃもしゃ越しに奥床しく見えるので
love in a mist なんて英名も付けられています。
花が終れば大きな角のある面白い形の実(さく果)が付いて
個性的なドライフラワーにもなります。
実がどんどんつくので、後から咲く花は最初の頃より
小さなサイズになってゆきます。
花は綺麗で個性的、実も独特で楽しめる、
それなのに日本名は「クロタネソウ」、
一般名も「ニゲラ」つまり「黒」
なぜわざわざ種を強調するような名前に?

三色の花が終り、花の可憐さからは想像し難い
ちょっと不気味な形の実がつき、
そのまま熟させて実の先が開く頃、種とりをしました。
赤い花の実は赤っぽく、白い花の実は白っぽく、
青い花の実はその中間で見分けるのが簡単です。
さやを開いて中からこぼれてきたゴマ粒程の種が

まっくろ。
種なら黒いのは当たり前でしょうとおっしゃらず。
形も大きさも黒ゴマに似ているけれど、
真っ黒な黒ゴマがまだ薄く見える黒さです。
碁石の那智黒のマットな黒の質感といいますか、
このクロタネソウの黒種にあたった光は全ての波長が
ことごとく吸収され跳ね返ってこないような印象です。
胡麻粒大のブラック・ホール。
成る程、羽毛のような葉、可憐な花、印象的な実、
それらすべての特徴を押し退けてわざわざ
「クロタネソウ」と命名されるだけの事はある種です。

とか言って。
いくら種が黒いからって、それだけで種の姿が
植物の呼び名になる事はないでしょう。
実はこの黒種、嗅いでみると良い香りがします。
ニゲラの種は中東や欧州などではお菓子やパンの
香り付けに使うハーブだそうです。
だからもともと「種」がメインな植物だったんですね。
種の姿に驚いた訳ではなくて、種が有用だったから
種を中心にした名前で知られる様になったのでは。

では、ゴマみたいにぱらぱらと生地に振り掛けて‥‥
食べない食べない。
秋に蒔いて来春三色とも咲かせるんですから。
種はしっかりと光を遮らないと発芽しないのだそうです。
土を確実にかぶせるか黒ビニール等で遮光しないと。
さすがは黒の中の黒、
あらゆる光を逃さぬ小さなブラック・ホール。




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