嵐の後のローズマリー

−塩の嵐の顛末記−

 この頃は思わぬ災害が続きますね。皆様の所は御無事でしょうか。
このあたりはこの夏日当たりがほとんど無かったものの、今までのところ幸いこれ
といった被害もなく、ハーブは皆元気に育っておりました。
 ところが。
ハーブの敵は雨風や虫だけでは、無かったのです。

 台風5号の東側にあたったこのあたりは、高い山がないので雨はさして降りませ
んでしたが、かなりの風になりました。電車を止め、学校を休校にし、足早に北に
向かった台風の抜けた後は、夏には一度も見られなかった青空になりました。
 ああ、たいした被害もなくて良かった、と出先で窓超しに明るくなった外を見て
びっくり。 そのとき私の居た建物は、目の前の鮮やかな海が自慢で各階に見晴ら
しの良い窓がつけられているのですが、そのガラスが一夜にして、全面すりガラス
になっていたのです!…ガラスに張りついて良く見ると、純白の羽毛の形をした結
晶や綺麗な立方体の細かな結晶がびっしりと、日射しにきらきら輝いています…そ
う、塩です。海水が風に吹きあおられて、小雨に溶け、町中のガラスといわず壁と
いわず、道といわず樹といわず、一面覆い尽くしていたのです。
 …その後の「台風の後片付け」といったら、ひたすら植木の水洗い。
広い葉っぱの縁にはサイコロ状の塩化ナトリウムが析出して光っています。
 それからのこのあたりは、二ヶ月早い紅葉の季節のようなありさま。
山を見れば柔らかな楢の樹が、街中では大きな銀杏の樹が、里では果樹や花木が、
落葉樹は全てその薄い葉を茶色にちぢれさせ、遮るもののない丈の高い草、−花の
真際だったコスモス等−は立ち枯れてしまいました。緑のものは海岸の松林と生け
垣のカイヅカイブキ等の針葉樹、ちょっとした風よけの陰にあったもの、地面に近
い丈の低い草、等です。
 もっとも、茶色になった植物もほとんど本体は無事ですので、枯れた葉を落とし
てしまえばまた元気な新芽をつけるでしょうし、幸い稲刈りも終わっていますので 、
見た目はちょっと凄絶ですが、影響はそれほどでもなさそうです。
 それにしても。これが「塩害」というものでしょうか、こちらに来て初めて見ま
した。去年は六月に台風が二つ来ましたが、いずれも大雨で、塩はつかなかったの
です。

 さて、私のハーブ達ですが。
背の低いものがほとんどですので、それほどひどくはありませんでしたが、やっぱ
り、葉の広いもののダメージは大でした。
 葉の広くて薄い紫蘇とバジルは立ち枯れてしまいました。大きい株は根がしっか
りしているから、風に吹きあおられてもなんとかなるだろう、と思っていたのです
が、さすがに塩には勝てなかったのです。でも、夏場山のように食べたし、ペース
ト作って冷凍してあるし、とっておいた予備苗を移せば、今からまた育つでしょう 。
 ミント類。根元に芽がぎっしりありますので、変色した上部を刈り取れば、これ
からの時季、かえって元気良く殖えるでしょう。今週はフレッシュミントティーが
飲めませんが、ま、しばらくはドライで。
 花を待っていたパイナップルミント。背が高くて葉が広いので直撃でした。しょ
うがないなあ。丈を切り詰めて下から芽を出させます。伸び過ぎていたので、どう
せ花の後で切ろうと思っていましたから。
 最大の被害はハニーサックル(すいかずら)ということになりますか。外階段の
踊り場のプランターから壁をつたわせていたのですが、頭上で茂っていた緑の葉が
みな落ちてしまいました。残ったのは銅色の太い針金を 縒り合わせたような蔓。本
体は元気なのでまた葉は出ますが、「空中庭園」(踊り場に作ったプランターガー
デン)の天蓋が無くなってしまって、少し寂しい気がします。
 あとは、いくぶん葉の縁や先端が枯れたものの、本体には影響がないので、持ち
直してこれからの良い気候に気持ち良く育つことでしょう。総体的に実害は少なか
ったと言えます。でもまさか、塩のベールに襲われるなんてね。これからも「不慮
の事態」の心構えをしておかなくては。

 塩の嵐の去った後、すべての植物がいくぶんかはは傷付いた中でただひとつ、い
つもと変わらぬ緑のハーブがありました。「海のしずく」と言う名のロスマリン−
ローズマリーです。断崖に生えるという地中海の香草、海水を浴びる事などあたり
まえの環境で育つだけの事はある、とその名に違わぬ強さに感心しました。
そういえば、近郊にローズマリーをテーマにした町営の愛らしいハーブガーデンが
ありますが、考えたのですね、この海に面した地で無事に育つハーブは何かと。そ
して「海のしずく」が選ばれた。
 塩枯れの町を抜けてそのガーデンの前を通ると、濃い松葉色の葉の上に、何事も
無かったかのように小さな水色のローズマリーの花が、それこそ「しずく」のよう
に無数に咲いていました。(980922)

 


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